最適日常が選ぶ2021年短歌の世界の10大ニュース+α

2021年1月1日から12月31日におきた短歌界の、または短歌に関する出来事の中で、特に大きな影響を与えたと思われるものを10件選びました。

当サイトが選出したものですので、つまり管理人(月岡)ひとりの観測範囲の中から、まったく個人的な印象と、界隈の反応の大きさ(これも主観に依る)を元に選び出したものになります。また、ネット上のできごとに偏りがあります。

ですので、どうぞあまり深く考えずに「あ~こんなこともあったなぁ」という感じで楽しんでもらえればと思います。皆様にとって2021年を振り返り語り合う、ちょっとしたきっかけになりますように。

Twitterのスペースやツイキャスなど様々な配信サービスで、皆さんがこの記事を元に語り合って2021年を振り返ってくれたりすると嬉しいですね。

2021年の短歌界の10大ニュース

1. コロナ禍の影響続く

前年(2020年)に引き続き、2021年も新型コロナウイルスによる感染拡大の影響は深刻なものがありました。

この年から広くワクチンの集団接種が成されましたが、それは完全な予防を期すものではなく、また変異株の流行もあり、2021年には2回の緊急事態宣言と、1回のまん延防止等重点措置が発令されました。

このことは、我々のあらゆる社会生活にダメージを与えたのはもちろんですが、短歌に関わる諸活動においても大小さまざまな影響を与えたといえるでしょう。

具体的には、対面を伴うイベントの中止や延期があり、その大きなところでは、1月の文フリ京都、2月の文フリ広島、6月の文フリ岩手、が中止に、3月の文フリ前橋、が日程未定の延期に、10月の文フリ札幌ではワクチン集団接種の影響で、間近に会場変更を余儀なくされました。その他、様々な展示会、読書会、サイン会などが中止、延期となったようです。

しかしながらその一方で、オンライン短歌市の開催や、様々なオンラインでのトークイベント、歌会、読書会などが催され、短歌界におけるオンライン化を大いに促進した事実もあります。

また関連するトピックとして、救急科専門医である犬養楓さんの、コロナ禍と最前線で戦うことを歌にした歌集『前線』(書肆侃侃房)が刊行されるなどもしました。

2. 岡野弘彦に文化勲章

11月に岡野弘彦さんが文化勲章を受賞しました。

歌人としての活躍で知られる人物が文化勲章を受章するのは、1986年の土屋文明が受賞して以来のことであり、1937年の制定以来、佐佐木信綱、斎藤茂吉、も含めて4人目になります。(対象を古典研究などの分野にも広げれば、鈴木虎雄、中西進さん、久保田淳さん、なども)

文学に限らず文化への貢献に業績を残した人物に贈られるものとして、日本における最大級の賞といえる文化勲章。その結果は、周辺からの短歌界へのあらためての関心を大いに引き付けたことは間違いないでしょう。そしてそれによりもたらされる様々な恩恵を、多くの歌人が被ることになるのでしょう。

また、12月にはその歌業をまとめた『岡野弘彦全歌集』が青磁社より刊行されました。

3. 俵万智展とW受賞

7月に角川武蔵野ミュージアムで「俵万智 展 #たったひとつの「いいね」 『サラダ記念日』から『未来のサイズ』まで」と題して、俵万智さんの初の本格的な個展が開催されました。反響は大きく、当初11月までの会期は2度の延長を重ね、明けて2022年の1月まで展かれることとなりました。

同展示については、その展示内容はもとより、周辺にかけられた力にこそ意識を払い語るべきものがあったかもしれません。会場のグレードと大きさ、展示方法の高品質でコンセプティブなデザインなど、これまでにない規模の短歌の展示であったことは、俵万智という存在の社会的な重要性を物語っていたと思います。

またこの年、俵さんは前年(2020年)に刊行した第6歌集『未来のサイズ』で、3月に詩歌文学館賞を受賞。続いて4月には歌壇の最高賞と目される迢空賞を受賞しました。

この事実は、業界と市場、異なる評価軸を持つであろう双方において、最大級の評価を得たことを意味し、改めて俵万智という歌人の偉大さを示すこととなりました。

4. 『はつなつみずうみ分光器』刊行

6月に左右社より瀬戸夏子さんが手掛けた『はつなつみずうみ分光器 after 2000 現代短歌クロニクル』が刊行されました。2000年以降に刊行された歌集から重要なものとして55冊を定め、これに解説を加え、そこからそれぞれ10首を選び出し1冊にまとめたものです。

穂村弘さんや東直子さん、吉川宏志さん、笹公人さんなどの、今まさに現役のトップランナーとして活躍する歌人から、木下龍也さんや初谷むいさん、川野芽生さんなど若い世代の歌集まで幅広く取り上げられています。

同書は、多くの歌人にとって重要な資料となるとともに、まだ歌を始めたばかりの歌人にとっては自らを磨くための参考の書として、大いに頼りになることでしょう。そしてまた、未だ歌を知らぬ人々に、優れた歌との出会いを生み出してくれるのではないかと思います。

また同書では、若い世代を既に歴史の一部として語っており、そのことは世代の当事者たちにとって表現者としてのアイデンティティーをたしかに明らかにするものであり、彼らの創作を後押しする意義も持っていたと思います。

およそ『桜前線開架宣言』や『短歌タイムカプセル』などの名アンソロジーに加わる仕事であるといえるのではないでしょうか。

5. アイドル歌会の開催

7月6日に第1回「アイドル歌会@サラダ記念日」が史上初の試みと銘打って開催されると、続く10月3日にTIF出張版、11月23日に第2回12月28日に第3回と、都合4回が開催されました。

普段短歌に触れる機会、どころか興味すら持たない人々へ及ぼす影響は、訴求の強さの面でも広さの面でも、これまでの企画にはない大きなものがあったと思われます。

主催が短歌研究社、そして選者に俵万智さんと笹公人さんという、短歌界の内外に精通し、メディア慣れしている二人を起用。短歌界からは最高のリソースが注がれた格好であったといえるでしょう。

また、参加アイドルもでんぱ組.inc私立恵比寿中学といった非常に有名なアイドルグループから参加しており、その注目度の高さは、なかなか過去に例を見つけるのは難しいイベントであったと思います。

今後もますますの発展と継続を期待したいイベントです。

6. カードゲーム『57577 ゴーシチゴーシチシチ』がリリース

7月に幻冬舎から、なべとびすこさんと天野慶さんが手掛けた短歌のカードゲーム『57577 ゴーシチゴーシチシチ』が発売されました。

子供から大人まで、およそ普段短歌になじみはないと思われる人たちが興じる様が、Twitter上などでも多く観測されました。また、テレビ番組など様々な媒体でも取り上げられ、大いに話題になりました。

短歌の楽しみを拡張し、より広くより違う形での魅力を、短歌界隈の内にも外にも提供する重要な仕事を行ったのではないかと感じます。

また、ゲームを通して短歌を作成する方法のひとつを体験させることで、歌を自ら作りたい欲求を刺激し、短歌へ近づく人を増やした側面もあったのではないでしょうか。

同カードゲームは、なべとびすこさんが手掛けた『ミソヒトサジ<定食>』を前身としています。この発展と同じく『57577 ゴーシチゴーシチシチ』もまた、さらなるアップデートや異なるバリエーションの展開などを期待し、その影響をさらに広げていくことを願ってやみません。

7. オンライン短歌市の開催

橋爪志保さん、谷じゃこさん、御殿山みなみさんを運営とした「オンライン短歌市」が開催。2月21日に第1回、8月29日に第2回と、この年、2度の開催がありました。

pictSQUARE」というプラットフォームを用いて、まるでドラクエのようなRPG的世界をキャラクターとして歩き回り他者と会話する様は、リアル世界のイベントを彷彿とさせ、コロナ禍においてリアルイベントの参加機会を失った人々に、少なからずストレスを解消させる効果をもたらしたことでしょう。

特に第1回で定められていた「必ず1点は紙媒体の商品を扱うこととし、これがあればダウンロード商品の取り扱いも可」とする主旨のルールは、Web媒体での作品発表を主たる活動とする人々と、紙媒体での作品発表を主たる活動とする人々に、シームレスな発表機会を提供する場として、または双方に異なる作品発表の選択肢を考える機会を与える場として機能したはずです。そしてなにより双方の作品需要者にとってより作品との出会いを広げる場として、大いに意義を示したイベントだと考えます。

またコロナ禍以前から、そもそも地方者にとっては、事実上大都市部でしか開催できない販促会等の大型イベントへの参加は、難しい現実がありました。本イベントは、これを疑似的に可能とするものであり、その意味でも重要なイベントの誕生であったといえます。

なお、本記事作成段階の現在2022年2月は、昨年2021年の第1回が開催された時期であるものの、いまだ第3回のアナウンスが聞こえてこないのは、その意義的な側面から残念なところです。

8. 『あみもの』と『うたつかい』の終刊、そして『うたそら』

御殿山みなみさんが2018年1月から発行を続けてきた『あみもの』が、この年3月に39号の発行を以て終刊となりました。

また、嶋田さくらこさんらが2011年9月から発行を続けてきた『うたつかい』が、この年9月に36号の発行を以て終刊となりました。

これら両誌は、選がなく、誰でも短歌連作を掲載できるとあって、ネット上の、連作にまで取り組むような本格的な活動を続ける歌人たちにとって、重要な座標であり続けたと思います。

この年、重要かつ大きな作品発表の場を2つも失ったわけですが、この動きに合わせたかのように(実際は無関係)千原こはぎさんによる『うたそら』が3月に創刊されました。

無料かつWeb媒体として提供されていた『あみもの』と、有料かつ紙媒体としての意識が強かった『うたつかい』に対し、『うたそら』はPDFとネットプリントの双方を提供する、また異なったスタンスを見せています。

偶然や、意識的な取り組みの重なりに、多くの人たちの短歌を続ける環境が受け継がれていることは、広く記憶されるべきことだと考えます。

参考記事

9. 短歌同人誌『西瓜』の創刊

7月、歌人11人(岩尾淳子さん、江戸雪さん、門脇篤史さん、楠誓英さん、笹川諒さん、嶋田さくらこさん、鈴木晴香さん、曾根毅さん、染野太朗さん、土岐友浩さん、とみいえひろこさん、野田かおりさん、三田三郎さん、安田茜さん)を同人として短歌同人誌『西瓜』の創刊号が刊行されました。

実績にも優れ、精力的な活動を続ける同人を多数抱える同人誌の創刊は、界隈に大きなインパクトと喜びを与えました。

また、同誌には読者投稿欄「ともに」が設けられており、この年、「野性歌壇(小説野性時代)」、「うたう☆クラブ(短歌研究)」、「短歌de胸キュン(NHK短歌)」、「東直子の短歌の時間(公募ガイド)」などが終了したこともあって、その受け皿としても求められた側面もあったのではないかと思われます。

Webサイト、TwitterなどWeb上のプラットフォームをよく活用しており、その面でも目がそらせない同人誌の誕生であったと思います。

10. 西巻真がクラウドファンディングで歌集出版

2月に西巻真さんが第1歌集出版のためのクラウドファンディングを開始。多くの支持を得、目標額を早い段階で達成。その後8月に歌集『ダスビダーニャ』を刊行しました。

クラファンを成功させ歌集出版まで至った例は、2018年の鈴木智子さんの『砂漠の庭師』以来2例目と思われます。しかもその出版資金のほとんどを調達できた例は初めてだったかもしれません。

多様な作品発表の道の一つとして、クラウドファンディングを行うという選択肢が一般的なものとして普及することは、きっと多くの歌人にとって望ましいことでしょう。

また一方で西巻さんは、多くの歌人の中でもクラウドファンディングに向いていたという側面もありました。

  • 大結社に所属
  • 活動歴の長さと知己の多さ
  • 華々しい受賞歴
  • 支援する側の理解を得やすい経済状況

などの要素は大きく影響したでしょうし、また、これらすべての条件がそろってなければ果たしてこれほどの成功を得られたかは疑問があるところでもあります。

そのことを踏まえたうえで、続く3例目、4例目の成功事例が生まれ、クラウドファンディングで歌集を出版するという選択肢が、より一般的なものとなることを期待したいところです。

また、歌集出版に限らず、今後もクラウドファンディングを活用した様々な歌人の活動が成功していくことも望んでやみません。

+α(プラスアルファ)のできごと

1月、第1回となる「flipper連作短歌賞」の開催が告知されました。「たにゆめ杯」などとともに、10~20首の小規模な連作を募集する賞が増えることは、短歌連作を作る層にとってステップアップの仕組みが提供されることとなり、大いに歓迎されるべきことではないかと考えます。

2月、愛知県によるオンラインアートプロジェクト「AICHI ⇆ONLINE」が開催。愛知ゆかりの歌人9名(谷川電話さん、戸田響子さん、小坂井大輔さん、寺井奈緒美さん、辻聡之さん、野口あや子さん、千種創一さん、惟任將彥さん、山川藍さん)によるプログラム「ここでのこと」が配信。ラグジュアリーなWebテキストによる読書体験を提供しました。

3月、Twitter上の同時短歌投稿企画「短歌桜」が開催。その勢いによりハッシュタグ「#短歌桜」がTwitter上で日本のトレンドとなりました。

3月、『3653日目 〈塔短歌会・東北〉震災詠の記録』(荒蝦夷)が刊行。塔短歌会・東北で2011年から2019年に毎年発行してきた短歌冊子『99日目』から『2933日目』までの9冊を1冊にまとめたものでした。

5月、ネット歌会「原人の海図」が20周年を迎えました。ネット歌会黎明期、当時のシステムから変わらず続いていることは、やはり特筆すべきことだと思います。

5月、「短歌研究」5月号が重版。昭和7年の創刊以来、初のことでした。

7月、東直子さんの短歌を原作とした映画「春原さんのうた」が、マルセイユ国際映画祭で3冠を獲得。また同じく映画の話題として、9月に工藤吉生さんの歌集「世界で一番すばらしい俺」が、剛力彩芽さんを主演に映画化され、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2021で上映されました。

7月、「現代短歌」2021年9月/86号の特集「Anthology of 60 Tanka Poets born after 1990」に対する編集後記が物議を醸しました。これには、二三川練さんが署名を集め抗議を行う、などの動きもありました。

8月、蒔田さくら子さんが逝去。11冊の歌集を著し、「短歌人」の編集委員、現代歌人協会理事、「NHK歌壇」選者、などを務め、短歌界に重きをなした歌人でした。

8月、小野田光さんがBR賞と現代短歌評論賞のW受賞に輝きました。BR賞の立場から見ると、昨年第1回に受賞者を出せなかったところに、今回現代短歌評論賞の価値を付与された形ともなり、次回以降の開催に非常に好ましい結果を得られたといえます。

10月、「馬場あき子全歌集」がKADOKAWAから刊行。全27歌集、約1万首を1冊にまとめたそのサイズ感も話題となりました。

11月、木下龍也さんの「あなたのための短歌集」が刊行。木下さんが行っている、一人一人の注文に応じて歌を詠う活動「あなたのための短歌」をまとめ書籍化したもので、これまでの歌集にはない非常にユニークなものでした。

11月、黒瀬珂瀾さんの第1歌集『黒耀宮』が、泥書房から復刊されました。読売歌壇の選者も務めるトップランナーの伝説的な第1歌集の復刊は、短歌関係者の間で大いに話題となりました。

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