現代短歌の新進気鋭の若手歌人42人

今この令和の時代において短歌を詠む人たちがいます。それも専門的に、いわばプロとして。そんな現代の歌人の中から、現代の言葉と現代の感性で今を詠う、若く優れた歌人のみなさんを紹介します。

※最初の投稿から少しずつ時間をかけて若く優れた歌人を収集してきましたが、各短歌賞の歴代受賞者などの調査も終わり、この42人で今回のところは確定としたいと思います。

素材出典:BURST

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短歌って年寄りの趣味では?

短歌というと、一般的には国語の教科書に出てくるような、難しくて堅苦しくて古臭いイメージがあるかもしれません。たしかにそういった側面もありますが、一方で全国の多くの大学で短歌会が作られ、また高校生には短歌甲子園といったものまであります。俳句との比較になりますが、短詩系文学の世界では短歌は若者の文学などといったイメージすらあったりします。

選んだ基準は?

第1に若いことです。2020年において34歳以下となる1986年以降の生まれであることが条件です。

第2に認められていることです。昨年(2019年)までの実績として歌集の商業出版を果たしているか、短歌界でよく認められている賞を受賞していることが条件です。

第3に今も活躍してることです。歌集の出版または賞の受賞が10年以内でのことが条件です。

なぜ1986年以降なの?

若手や若者などといってもその解釈は様々です。

20歳を過ぎれば大人だから、それ以下が若者だという意見もあるでしょうし、高齢層が支配的な業界では40代でも若造といわれるかもしれません。多くの官庁や公共機関が定義するところでは39歳以下または34歳以下の2つに分かれるようです。

本記事では、厚生労働省が雇用対策時に用いる若年層の定義であるところの34歳以下を基準とします。より若い年代へフォーカスしたいという意図があります。特に瑞々しい感性を感じてみてください。

門脇篤史

  • 生年:1986年
  • 来歴:2016年に未来賞を受賞。2018年に第6回現代短歌社賞を受賞。2019年に第1歌集『微風域』を出版。

側溝に入れなかつた雨たちがどうしやうもなく街をさまよふ

門脇篤史『微風域』

小島なお

  • 生年:1986年
  • 来歴:2004年に第50回角川短歌賞受賞。2007年に第1歌集『乱反射』を出版。同書により第8回現代短歌新人賞、第10回駿河梅花文学賞を受賞。2011年に映画化。2011年に第2歌集『サリンジャーは死んでしまった』を出版。2016年からNHK短歌選者。母は歌人の小島ゆかり。

春風のなかの鳩らが呟けりサリンジャーは死んでしまった

小島なお『サリンジャーは死んでしまった』

佐佐木定綱

  • 生年:1986年
  • 来歴:2017年に第62回角川短歌賞を受賞。2019年に第1歌集『月を食う』を出版。父は歌人の佐佐木幸綱。

ぼくの持つバケツに落ちた月を食いめだかの腹はふくらんでゆく

佐佐木定綱『月を食う』

田口綾子

  • 生年:1986年
  • 来歴:2008年に第51回短歌研究新人賞を受賞。 2018年に第一歌集『かざぐるま』を出版。同書により2019年に第19回現代短歌新人賞を受賞。

がらすだま昏きをひとつみづくさの陰にかくして顔をあげたり

田口綾子『かざぐるま』

谷川電話

  • 生年:1986年
  • 来歴:2014年に第60回角川短歌賞を受賞。2017年に第1歌集『恋人不死身説』を出版。

二種類の唾液が溶けたエビアンのペットボトルが朝日を通す

谷川電話『恋人不死身説』

望月裕二郎

  • 生年:1986年
  • 来歴:2013年に第1歌集『あそこ』を出版。

おもうからあるのだそこにわたくしはいないいないばあこれが顔だよ

望月裕二郎『あそこ』

吉岡太朗

  • 生年:1986年
  • 来歴:2007年に第50回短歌研究新人賞を受賞。2014年に第1歌集『ひだりききの機械』、2019年に第2歌集『世界樹の素描』を出版。

にんげんが塔婆のように立っとってことばときもちしかつうじひん

吉岡太朗『世界樹の素描』

笠木拓

  • 生年:1987年
  • 来歴:2012年に第58回角川短歌賞佳作。2018年に第6回現代短歌社賞次席。2019年に『はるかカーテンコールまで』を刊行。

青鷺、とあなたが指してくれた日の川のひかりを覚えていたい

笠木拓『はるかカーテンコールまで』

野口あや子

  • 生年:1987年
  • 来歴:2005年に第48回短歌研究新人賞次席。2006年に第49回短歌研究新人賞を受賞。2009年に第1歌集『くびすじの欠片』を出版。同書で2010年に第54回現代歌人協会賞を受賞。2012年に第2歌集『夏にふれる』、2015年に第3歌集『かなしき玩具譚』、2017年に『眠れる海』を出版。

風邪ひかないようにねいずれは死んでね 煙草の丸い断面燃やす

野口あや子『眠れる海』

服部真里子

  • 生年:1987年
  • 来歴:2013年に第24回歌壇賞を受賞。2014年に第1歌集『行け広野へと』を出版。同書にて2015年に第59回現代歌人協会賞、第21回日本歌人クラブ新人賞を受賞。

水仙と盗聴、わたしが傾くとわたしを巡るわずかなる水

服部真里子『遠くの敵や硝子を』

馬場めぐみ

  • 生年:1987年
  • 来歴:2011年に第54回短歌研究新人賞を受賞。

ひとこきゅうまたひとこきゅう特別じゃないものとしてわたしここです

「短歌研究」2011年9月号「見つけだしたい」

山木礼子

  • 生年:1987年
  • 来歴:2011年に未来賞を受賞。2013年に第56回短歌研究新人賞を受賞。

触つてはいけないものばかりなのに博物館で会はうだなんて

「短歌研究」2013年9月号「目覚めればあしたは」

吉田竜宇

  • 生年:1987年
  • 来歴:2010年に第53回短歌研究新人賞を受賞。

またひとりまっさかさまを見届けて貯水タンクがふくらむ真昼

「短歌研究」2010年9月号「ロックン・エンド・ロール」

伊舎堂仁

  • 生年:1988年
  • 来歴:2014年に第1歌集『トントングラム』を刊行。

元気かな ブルーハーツがだいたいは言っちゃったとか言っちゃっていた

伊舎堂仁『トントングラム』

木下龍也

  • 生年:1988年
  • 来歴:2012年に第41回全国短歌大会大会賞を受賞。2013年に第1歌集『つむじ風、ここにあります』を、2016年に第2歌集『きみを嫌いな奴はクズだよ』を出版。

できたての事故車の横を通過する画廊の客のような僕たち

木下龍也『きみを嫌いな奴はクズだよ』

千種創一

  • 生年:1988年
  • 来歴:2011年に塔新人賞を受賞。2015年に歌壇賞次席。同年に第1歌集『砂丘律』を出版。2020年に第2歌集『千夜曳獏』を刊行。

千夜も一夜も越えていくから、砂漠から獏を曳き連れあなたの川へ

千種創一『千夜曳獏』

五十子尚夏

  • 生年:1989年
  • 来歴:2018年に第1歌集『The Moon Also Rises』を刊行。

朝焼けのマーキュリーから夕刻のユレイナスへと向く羅針盤

五十子尚夏『The Moon Also Rises』

石井僚一

  • 生年:1989年
  • 来歴:2014年に第57回短歌研究新人賞を受賞。2017年に第1歌集『死ぬほど好きだから死なねーよ』を出版。

傘を盗まれても性善説信ず父親のような雨に打たれて

石井僚一『死ぬほど好きだから死なねーよ』

近江瞬

  • 生年:1989年
  • 来歴:2018年に第61回短歌研究新人賞で佳作。2019年に第9回塔新人賞を受賞。2020年に第1歌集『飛び散れ、水たち』を出版。

何度でも夏は眩しい僕たちのすべてが書き出しの一行目

近江瞬『飛び散れ、水たち』

大森静佳

  • 生年:1989年
  • 来歴:2010年に第56回角川短歌賞を受賞。2013年に第1歌集『てのひらを燃やす』を出版し、第39回現代歌人集会賞を受賞。2014年に同書で第20回日本歌人クラブ新人賞、第58回現代歌人協会賞を受賞。2018年に第2歌集『カミーユ』を出版。2019年に同書で第12回日本一行詩大賞を受賞。

曇天に火照った胸をひらきつつ水鳥はゆくあなたの死後へ

大森静佳『カミーユ』

藤本玲未

  • 生年:1989年
  • 来歴:2014年に第1歌集『オーロラのお針子』を刊行。

あなたから生まれる前の夢をみた波打ち際の電話ボックス

藤本玲未『オーロラのお針子』

藪内亮輔

  • 生年:1989年
  • 来歴:2012年に第58回角川短歌賞を受賞。2018年に第1歌集『海蛇と珊瑚』を出版。

雨はふる、降りながら降る 生きながら生きるやりかたを教へてください

藪内亮輔『海蛇と珊瑚』

吉田隼人

  • 生年:1989年
  • 来歴:2013年に第59回角川短歌賞を受賞。2015年に第1歌集『忘却のための試論』を出版。同書で2016年に小野梓記念芸術賞、第60回現代歌人協会賞を受賞。

ぺるそな を しづかにはづしひためんのわれにふくなる 崖のしほかぜ

吉田隼人『忘却のための試論』

井上法子

  • 生年:1990年
  • 来歴:2013年に第56回短歌研究新人賞次席。2016年に第1歌集『永遠でないほうの火』を出版。

煮えたぎる鍋を見すえて だいじょうぶ これは永遠でないほうの火

井上法子『永遠でないほうの火』

鈴木ちはね

  • 生年:1990年
  • 来歴:2019年に第2回笹井宏之賞大賞を受賞。2020年に第1歌集『予言』を出版。

堤防を上りつめたらでかい川が予言のように広がっていた

鈴木ちはね『予言』

遠野真

  • 生年:1990年
  • 来歴:2015年に第58回短歌研究新人賞を受賞。

夜のこと何も知らない でこぼこの月にからだを大人にされる

「短歌研究」2015年9月号「さなぎの議題」

西村曜

  • 生年:1990年
  • 来歴:2018年に第1歌集『コンビニに生まれかわってしまっても』を出版。

だいすしなあなたにすきを奢りますちなみに回るほうのすきです

西村曜『コンビニに生まれかわってしまっても』

山川築

  • 生年:1990年
  • 来歴:2018年に第64回角川短歌賞を受賞。

ぶらんこは錆ぶ 鎖されし保育園にふたつまとめてねぢり上げられ

「短歌」2018年11月号「オン・ザ・ロード」

山下翔

  • 生年:1990年
  • 来歴:2018年に第1歌集『温泉』を出版。同書にて第44回現代歌人集会賞を受賞。

草食んでぢつとしてゐる夜の猫とほいなあ いろんなところが遠い

山下翔『温泉』

川野芽生

  • 生年:1991年
  • 来歴:第29回歌壇賞を受賞。

わがウェルギリウスわれなり薔薇そうびとふ九重の地獄infernoひらけば

川野芽生『歌壇』2月号「Lilith」

睦月都

  • 生年:1991年
  • 来歴:2017年に第63回角川短歌賞を受賞。

壺とわれ並びて佇てる回廊に西陽入りきてふたつ影伸ぶ

「短歌」2017年11月号「十七月の娘たち」

イシカワユウカ

  • 生年:1992年
  • 来歴:2018年に第8回中城ふみ子賞を受賞。

こんなにもすぐ手の届く場所にゐて死ぬ前のやうにのたうつ裸体

「短歌研究」2018年8月号「舞ひ踊るをんなたちの裸体」

榊原紘

  • 生年:1992年
  • 来歴:2019年に第2回笹井宏之賞大賞を受賞。2020年に第1歌集『悪友』を出版。

雪の染みた靴から君が伸びている そんな顔で笑うやつがあるか

榊原紘『悪友』

中山俊一

  • 生年:1992年
  • 来歴:2016年に第1歌集『水銀飛行』を刊行。

きみのおとうさんはさみしいひとだった朝虹を彫る版画教室

中山俊一『水銀飛行』

鈴木加成太

  • 生年:1993年
  • 来歴:2015年に第61回角川短歌賞を受賞。

水底にさす木漏れ日のしずけさに〈海〉の譜面をコピーしており

「短歌」2015年11月号「革靴とスニーカー」

立花開

  • 生年:1993年
  • 来歴:2011年に第57回角川短歌賞を受賞。

やわらかく監禁されて降る雨に窓辺にもたれた一人、教室

「短歌」2011年11月号「一人、教室」

中野霞

  • 生年:1996年
  • 来歴:2019年に第62回短歌研究新人賞を受賞。

球体の生き物のうえ浸み出した髄液として存在する海

中野霞『中野霞 第一歌集』
準備中 powered by BASE
中野霞(なかの・かすみ)長野県生まれ。小学生より作歌を始める。2019年第62回短歌研究新人賞受賞。

初谷むい

  • 生年:1996年
  • 来歴:2018年に『花は泡、そこにいたって会いたいよ』を出版。2019年に大学短歌バトル2019の優勝メンバー。

エスカレーター、えすかと略しどこまでも えすか、あなたの夜を思うよ

初谷むい『花は泡、そこにいたって会いたいよ』

武田穂佳

  • 生年:1997年
  • 来歴:2015年に第10回全国高校生短歌大会団体の部で優勝。2016年に第59回短歌研究新人賞を受賞。2019年に大学短歌バトル2019の優勝メンバー。

休憩の八つの個室それぞれに違う女生徒いることの神秘

「短歌研究」2016年9月号「いつも明るい」

郡司和斗

  • 生年:1998年
  • 来歴:2019年に第62回短歌研究新人賞、第39回かりん賞を受賞。

絶版になった十代 まっさらなルーズリーフを空へと放つ 

「短歌研究」2019年9月号「ルーズリーフを空へと放つ」

川谷ふじの

  • 生年:2000年
  • 受賞:2018年に第61回短歌研究新人賞を受賞。

シリウスはあんなに遠いのに光る遠い約束すら愛せそう

「短歌研究」2018年9月号「自習室出てゆけば夜」

鳥居

  • 生年:非公開(鳥居さんは年齢を公表されていませんが、セーラー服を身にまとい自らでプロデュースするそのキャラクターは現役中学生ということですので、若年層に含まれることは疑いようもありません)
  • 受賞歴:2016年に第1歌集『キリンの子』を出版。同書にて2017年に第61回現代歌人協会賞を受賞。

揃えられ主人の帰り待っている飛び降りたこと知らぬ革靴

鳥居『キリンの子』

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