2020年の新聞各紙における短歌投稿欄(新聞歌壇)の選者について調べてみました

NEWSPAPER

この記事は新聞各紙上における読者による短歌投稿コーナー、いわゆる新聞歌壇の2020年現在の選者についてまとめたものです。

特に新聞歌壇を短歌創作活動のホームグラウンドに定めようと考えている方にとって、そのメインステージを選ぶ際のガイドブックになることを期待します。

目的 – この調査で知りたいこと

簡単に答えれば、先ずは自身が抱いた「結局今の短歌界で大きな影響力のある先生って誰なんだろう?」という素朴な疑問への回答です。

その回答を得るための具体的に思考が、現在の短歌界の情勢をインスタントに知る術はないだろうか?それは新聞歌壇の選者を見渡すことで可能なのではないだろうか?ということです。

新聞歌壇の選者が意味するもの

そもそも新聞歌壇とは、途切れることのない非常に長い歴史を誇るとともに、全国紙においては当然ながら巨大な読者を抱えています。また、報道に本体を置くことから、極めて公的な空間であることを要求され、読者の属性による偏りは比較的少なく、また社会的信用は依然高く保たれています。

投稿する側としても、そこでの活躍は結社誌や専門誌と比べて周辺に対する説得力が違うという魅力もあります。

新聞歌壇の選者になるということは、そういった巨大な媒体からの「一流歌人」という公認を得ることになるわけで、それはつまり「新聞歌壇の選者に就いている歌人は、きっと優れた歌人だろう」という予測が形成されることを意味します。

新聞歌壇の選者になる人とは?

実際のところ新聞歌壇の選者がどのようにして決まるのか、その内実は知りません。しかしながら、およそ新聞歌壇の選者に就任するということは、次の要素を持ち合わせていることを推測できるはずです。

  • 読者(短歌愛好家)が憧れるに足る、優れた作品群、受賞歴、知名度がある。
  • 読者がその選に納得する審美眼と分析力、その証明たる選集や評論の実績がある。
  • 結社等において十分な期間指導的立場にあり、指導力を証明してきた実績がある。

また、その選者をどのような立場の人々が関わりオファーするのかはわかりませんが、次のようなポイントが重視されるのではないでしょうか。

  • 短歌界から広く評価、支持されている。
  • 所属する結社が比較的大きく、そしてその立場が高い。
  • 短歌界の外からの評価や知名度がある。

おそらく新聞歌壇の選者を選ぶということも新聞の売り上げを上げる重要なポイントとなることでしょうから、より多くの読者を獲得できる人気とそれを維持できる実力が重視されることは間違いないでしょう。

以上の事から新聞歌壇の選者になる人というのは、必ずしも短歌界の第一人者ではなかったとしても上位少数パーセントに限られた一流歌人と目される人々であると考えられます。

調査対象

全国を販売網としている全国紙、および複数の府県をまたいだ地域で販売されているブロック紙を対象としています。つまり地方紙、1府県のみを販売域としている新聞は対象としていません。

というのも地方紙すべての状況まで把握するのは難しいものがありました。いちおう収集しようとは試みたのですが、私の力では厳しいです。

それに今回の調査の目的は、インスタントに短歌界全体の情勢を見通したいということなので・・・。

いつかそのうち、地方紙の状況まで含めた、中央と地方を合わせた全体的な短歌界の情勢を見渡せる調査ができるといいな、という思いは忘れないようにしたいと思います。

  • 発行部数は2019年のデータになります。()内は発行部数の全国順位です。
  • 記事中の年齢は月日に寄らず本年2020年に到達する満年齢を基準とします。

Image by K-factory on PhotoAC

全国紙5紙の選者

5大全国紙というと読売、朝日、毎日、日経、産経となります。

読売新聞(読売歌壇)

  • 発行部数:8,277,605部(全国1位)
  • 選者平均年齢:60歳(本記事2/8位)

読売新聞は圧倒的な発行部数を誇る新聞界の巨人です。827万部という数字は、2位の朝日新聞と3位の毎日新聞を足してもまだ足りません。実際の選者の方々の思いというのは知る由もありませんが、業界最大のステージからオファーを受けるということは、私のような俗な人間からすると、やはり特別な感慨があるのではないかと想像してしまいます。また、その稿料もやはりビッグなのではないかと予測してしまいます。

選者生年所属等
小池光1947「短歌人」編集人
栗木京子1954「塔」選者
俵万智1962「心の花」所属
黒瀬珂瀾1977「未来」選者

バラエティーに富んだ人選

男女2名ずつ、そして1940年代から70年代までの各年代から段階的にうまいこと年齢がばらけた人選となっています。選者を選べるシステムなので、若い方もベテランの方も参加しやすいことでしょう。平均年齢を見ても本記事中で2番目(全国紙では1位)の若さを誇ります。なんとなく読売新聞が最も売れている理由がこんなところにも表れているような気がしてなりません。なにより一般人への知名度が圧倒的に抜群な俵万智さんを獲得しているところも流石という感じです。

ちなみに、黒瀬さんはひときわ若い40代。これは今年2月に一つ若い柳澤さんが北海道新聞の選者に就任するまで、5大紙とブロック紙の中で最も若い選者でした。

また、所属結社をぱっと見た場合、短歌関係者ならこの4社ほど大きくかつ勢いがあり目立つ結社はないと思うのではないでしょうか。「アララギ」の系譜に連なる「塔」と「未来」、アラ系とは独立した流れを持ち最古の歴史を誇る「心の花」、そこから派生しつつ結社でありながら主宰を持たない同人誌的性格を持つ「短歌人」と、そのアイデンティティーも意図的な多彩さを感じます。

朝日新聞(朝日歌壇)

  • 発行部数:5,656,493部(全国2位)
  • 選者平均年齢:81.5歳(本記事8/8位)

比較的大衆的な印象のある読売新聞に対し、朝日新聞はより真面目かつアカデミックな印象があり、革新的、進歩的論調を特徴としています。その姿勢から昭和期においては知性の拠り所として、最も権威的な存在でした。最近は信頼度において読者から否定的な印象を持たれているようです。非常に個人的な印象ですが、読売の向こうを張るための取材や記事品質の維持は、その台所事情を厳しくさせているのではないかと感じてしまいます。全共闘世代の風を感じられる方にとっては最もあこがれるポストかもしれません。

選者生年所属等
馬場あき子1928「かりん」主宰
佐佐木幸綱1938「心の花」主宰
高野公彦1941「コスモス」編集人
永田和宏1947「塔」編集人(前主宰)

超高齢化歌壇

偶々なのかもしれませんが、名のある結社のトップを揃えましたという印象を受けます。選者の平均年齢は81.5歳と本記事中最高齢。これは次に高齢な毎日と西日本の71.5歳よりも10歳も上になります。しかも参考で掲載している宮中歌会始の選者陣74歳よりも上です。およそ最も権威的ポストである歌会始より高齢であるのは驚きです。読売との差は21.5歳にもなり、朝日歌壇で最も若い永田さんと読売歌壇で最も高齢の小池さんが同年代というのは、非常に象徴的でもあります。

所属結社を見ると「かりん」「コスモス」は遡れば「明星」に由来し、アララギ系の「塔」、竹伯会系の「心の花」とそれぞれ大きな流れを異にするあたり、バランスが取れている感じがします。

毎日新聞(毎日歌壇)

  • 発行部数:2,502,298部(全国3位)
  • 選者平均年齢:71.5歳(本記事6/8位タイ)

かつては朝日と天下を競っていた時代もありましたが、読売の台頭と入れ替わるように以降衰微し続け、発行部数は朝日の半分を下回り、じわじわといずれ日経、産経にも抜かれそうな勢いです。論調としては中道左派といわれ、良くいえば偏りがなく、悪くいえば読者をつかみきれないところがあり「特徴がないのが特徴」などとも。そこに発行部数の衰微傾向の原因があるのかもしれません。

選者生年所属等
米川千嘉子1959「かりん」編集委員
加藤治郎1959「未来」選者
篠弘1933「まひる野」代表
伊藤一彦1943「心の花」所属

堅実な人選

宮内庁御用掛まで務める篠さん以外は、次に結社を継ぐことになりそうな人か次代の歌壇の重鎮となるだろう人といった印象の方々といえるでしょう。平均年齢としては篠さんがぐっと引き上げていますが、そこを割り引いても特に若いということもない陣容です。内外に派手に活躍するというよりは、絶えず創作を重ね、結社や関係の大会、地元での活動を中心に確実な仕事を積み重ねてこられた先生方という感じでしょうか。選者としての実力は疑うべくもありません。「間違いない」「堅実」という印象は一方で「地味」という印象も与えがちかもしれません。

結社の事を見るからに「まひる野」と「かりん」が同系というだけで、バランス的です。

日本経済新聞(日経歌壇)

  • 発行部数:2,349,693部(全国4位)
  • 選者平均年齢:67歳(本記事3/8位タイ)

経済紙というスタートながら、その内容、ポジション、部数を拡大し、今では三大紙というときに毎日ではなく、読売朝日日経とされることもあるほど。論調としては経済優先であることから保守的となりがち。毎日と同じように論調としては特徴がないともいわれますが、経済紙としてはメリットなのかもしれません。読者はその性格上企業幹部が多いといわれ「金持ちの新聞」とも。また、電子版の会員数は国内最大(世界第4位)を誇ります。

選者生年所属等
三枝昂之1944「りとむ」主宰
穂村弘1962「かばん」同人

明確なコントラスト

これまでの三大紙(読売朝日毎日)の選者4人体制とは異なり、以降の新聞歌壇は選者2人体制となります。文化に対する意気込みというか責任感の違いもあるでしょうし、また経済的体力の違いもあるでしょう。

歌会始選者も務める70代の三枝さんと、歌壇の内外で精力的に活動する50代の穂村さんのコンビは、非常に明確なコントラストがあり、2人という狭い枠ながらに多分に読者を意識した上手い陣容といえるでしょう。平均年齢も3位で、三枝さんも大ベテランといえども比較的若めです。ちなみに、これ以降の2人体制を敷く新聞6紙において男性のペアは日経だけとなっています。

所属結社といえば、空穂系との縁が深い三枝さんの「りとむ」と、そもそも結社と縁のない穂村さんという陣容は、そこに「アララギ」の影も「心の花」の流れも感じないところがユニークです。

産経新聞(産経歌壇)

  • 発行部数:1,401,441部(全国6位)
  • 選者平均年齢:70.5歳(本記事5/8位)

そもそもの部数が少ないこともありますが、全国5紙の中では部数の落ち込みは比較的緩やか。論調は読売と並ぶ保守傾向です。しかしながら読売のように発行部数が伸びず結局5位に甘んじています。ビジネスマンをターゲットとしているようですが、彼らのようなビジネスを思考のベースとする読者にとって論調の偏りはややマイナスに働くのかもしれません。取材力に関しても通信社への依存度が高い様子。また、フジテレビ、夕刊フジ、サンスポとグループ全体としてのエンタメ系スポーツ系のイメージが足を引っ張っている印象もありそうです。

選者生年所属等
伊藤一彦1943「心の花」所属
小島ゆかり1956「コスモス」選者

独自性薄く

伊藤さんが毎日新聞と、小島さんが中日新聞と兼務となっています。読売新聞は他紙との兼務を許さないそうですが、毎日や産経、中日などはそうも言ってられないのでしょうか。

結社を見ると「心の花」「コスモス」のどちらも源流を異にしていてバランスが取れているのではないでしょうか。伊藤さん小島さんともにそれぞれの結社で、主宰に次ぐ存在感を持っているように感じます。ただ先に述べた通りどちらも他紙で兼務しているので、産経新聞の歌壇に投稿したいという動機はどうしても希薄になってしまいます。

ブロック紙4紙

中日新聞(中日歌壇)

  • 発行部数:2,268,235部(全国5位)
  • 選者平均年齢:67歳(本記事3位タイ)

東海地方を中心に地域での販売に圧倒的な強さを見せ、その販売部数は全国紙の産経新聞より上です。また、グループの東京新聞や北陸中日新聞などを合わせれば毎日新聞を超える部数を誇ります。

選者生年所属等
小島ゆかり1956「コスモス」選者
島田修三1950「まひる野」選者

あとひとつ年齢に差がほしい

小島さんが産経との兼務になっています。小島さん島田さんどちらも主宰に次ぐ存在感を放っている方といえるでしょう。

結社をみてみると、どちらも元をたどれば「明星」に行きつくところが少し気になるといえば気になるでしょうか。それぞれの創立者の源流からの系譜上の世代も異なりますし、別れた意識についても異なるのでさほど問題はないのかもしれませんが。

また、男女のペアはいいとしても二人の年齢にさほど差がなく、投稿する読者側から見た場合もう少し工夫が欲しいなと感じてしまう陣容といえるかもしれません。

北海道新聞(日曜文芸欄)

  • 発行部数:963,741部(全国7位)
  • 選者平均年齢:58歳(本記事1位)

北海道という単一自治体に販売される新聞であるもののその規模や歴史的経緯からブロック紙と評価されます。実際、記者クラブや海外支局への記者の配置など、取材力においても一地方紙との評価ではすまされない実力があることも理由でしょう。

選者生年所属等
時田則雄1946「辛夷」編集発行人
柳澤美晴1978「未来」所属

地域性を大切に強いコントラスト

時田さんは年齢的にも大ベテラン。北海道を代表する歌人といえるでしょう。また今年2月から新たに選者となった柳澤さんはまだ40代。本記事中の新聞歌壇選者たちの中でも最も若い選者です。そのため平均年齢も1位という結果に。ユニークなのは二人とも北海道出身の歌人であるということ。読者としても親しみを感じることでしょうし、地域の文化を後援するという意味からも、効果的な人選なのではないでしょうか。

年齢、性別、中央と地方結社といった明確な差は、読者にとって大いにメリットがあると感じます。またどちらも中央においても大いに有名であることは読者にとって励みになることでしょう。

西日本新聞(西日本読者文芸)

  • 発行部数:583,615部(全国10位)
  • 選者平均年齢:71.5歳(本記事6位タイ)

九州5県の広域販売新聞ということですが、実態としては福岡県の新聞です。といっても内容的には広域に独自なものを取材しており、ちゃんとブロック紙しています。5大都市において独立してトップシェアを誇る新聞はそれだけで価値があるともいえるでしょう。

選者生年所属等
伊藤一彦1943「心の花」所属
栗木京子1954「塔」選者

もうひとつ若さと独自性を

伊藤さん栗木さんどちらも他紙と兼務です。栗木さんは読売選者なんですが、読売は兼務を許さないっぽい話がありましたがいいんですかね?全国紙でなければOKなんでしょうか?競合相手にはならないということでしょうか?

性別、結社の性格ともに差があるのはいいのですが、どうせなら年齢ももう少し差をつけてもらえるとより多様性に対応しやすいのかなと感じます。平均年齢71.5歳は朝日歌壇に次ぐ高さになっています。

東京新聞(東京歌壇)

  • 発行部数:451,592部(全国13位)
  • 選者平均年齢:69.5歳(82, 57)

中日新聞と同じ中日新聞社が発行するため主要記事は同じものが掲載されています。それとまた東京という都市の性格もあり、ブロック紙と扱われます。

選者生年所属等
佐佐木幸綱1938「心の花」主宰
東直子1963「かばん」同人

知名度とコントラストが秀逸

佐佐木・東のコンビは、なんとなくですが日経の三枝・穂村コンビと似てる印象を受けます。佐佐木さんと三枝さんが歌会始選者レベルの大ベテランで、穂村さんと東さんは短歌界の外にも活動的で、どちらも「かばん」の同人ですね。

選者の陣容から受ける印象は、それこそほぼ日経と同じなわけですが、一方で東京新聞の方は性別が分かれているので、そこが少し読者にとってありがたいかな?と思います。

まとめ

改めて新聞歌壇を見渡してみると、意外と若い選者も活躍しているんだなと感じました。今回上げた選者24名(重複も数える)の平均年齢は69.1歳となっており、70代には到達しませんでした。もう少し気持ち高めの年齢層ばかりになるのかな?と想像していましたが、特に黒瀬珂瀾さん柳澤美晴さんの採用は素晴らしい動きと感じます。

一方で朝日歌壇の高齢化は直ちに改善すべき問題ではないかと思います。権威性に高いほどに年功序列的な採用がされがちな傾向があるものですが、最も権威性が高いとみなされるであろう歌会始選者よりも平均年齢が高いというのは率直に言って異常だと感じます。なにも若い感性だとか年を取って能力が衰えるだとかそういう話ではなく(それもちょっとあるけど)リスクヘッジだとか後進の育成だとかワークシェアだとか多様性の受容性を高めるだとか、そういった様々な観点からももう少し若くしていくべきではないかと感じました。

年代90代80代70代60代50代40代
人数1人3人9人6人3人2人
比率4.2%12.5%37.5%25%12.5%8.3%

また、女性の比率をもう少し上げてもいいのかな?とも感じました。全部で24席しかない中での偏りを論ずるのは、あまり意味もない気もしますが・・・普通に半々にした方が読者が増えそうな気がしますがどうでしょうかね?

性別男性女性
人数15人9人
比率62.5%37.5%

今回は各新聞歌壇の選者について調べました。各紙様々な傾向が見える中で、たまたま購読していた新聞歌壇に投稿するのではなく、これぞといった新聞を購読して自分の目指すスタイルに合った歌壇に投稿することを検討しても良いのではないでしょうか。

また、これまでさんざん投稿してきたけどちっとも選ばれないんだという方も、ただ単に選者と合わないだけだったという可能性もあるので、思い切って投稿先を変えちゃうのもいいかもしれませんね。

以上です!

参考

NHK短歌

  • 選者平均年齢:44.5歳
選者生年所属等
松村正直1970「塔」編集長
小島なお1986「コスモス」所属
寺井龍哉1992「Tri」同人
栗木京子
(短歌de胸キュン)
1954「塔」選者

歌会始

  • 選者平均年齢:74歳
選者生年 所属等
篠弘1933「まひる野」代表
三枝昂之1944「りとむ」主宰
永田和宏1947「塔」編集人(前主宰)
今野寿美1952「りとむ」編集人
内藤明1954「音」発行人

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