「わたしの歌集とあなたの歌集」第1回に作品を紹介してくれるのは柴田有理さんです。
- わたしの歌集:『柴田有理25周年25首』柴田有理
- あなたの歌集:『鹿踊りのはじまり』宮沢賢治
『柴田有理25周年25首』

柴田有理(しばたあり)と申します。
岩手県盛岡市で美術家、歌人として活動しています。
今年で短歌を作りはじめて25年になりました。
このことを自分から記念し、今までの短歌作品を振り返って25首を選び、本にしました。
短歌を選ぶにあたり、柴田有理の短歌を知っている皆さんの意見もお聞きしました。
日暮里の地下でいろいろ考えて戻ってみたら一面ナポリ(収録歌より)
私が短歌をはじめたきっかけは、テレビに出ていた枡野浩一さんが美しかったことにさかのぼります。
枡野さんの掲示板(かつてインターネット上にあった交流サイト)に書き込んだり、自分でも短歌を作ってみたりするようになりました。
「かんたん短歌の作り方」を読んだつもりでしたが、結局私は枡野さんのルックスしか見ていなかったようで、当時の私の作る短歌は退屈。
あなたは絵を頑張りなさいと言われる始末でした。
だんだんオーバードーズなどをする時期に入りますが、これが評判が悪く、「少しくらい体を張ったってだめなんだ!」と身を持って知り、
短歌作りにもようやっと身が入るようになりました。
それからはかんたん短歌界隈で短歌投稿を続けたり、盛岡の天然短歌会(現在活動休止中)に短歌を出したりして、自分なりの短歌観をまとめて行きました。
音読したとき音の響きに自分が納得行くこと。
なるべく自分が心底思ったことを言う。
どこかどうしようもない可笑しみがあるように。
最近は友人と、盛岡で「ふらとてつ短歌会」を立ち上げ、メンバーを募って活動しています。
日暮里の地下でいろいろ考えて戻ってみたら一面ナポリ
日暮里の地下で、ああでもないこうでもない、俺はだめだ、みんなだめだ、と怒り疲れて
地上にもどったらカンツォーネが聞こえる。
あ、ここナポリだ。
Naporiと書かれたピザなどを出すお店の看板を
自転車を走らせながら“日暮里”と読み間違え、
自分でウケて短歌にしました。
のちに、日暮里は昔、売血の行われた土地でもあるのを知り、歌に陰影がつくなあと思いました。
一首一首、エピソードのある短歌を25首、
一冊におさめています。
見てもらえるのを気長に待っています。
柴田有理
タイトル | 柴田有理25周年25首 |
著者 | 柴田有理 |
発行 | 手作り本 |
初版 | 2025年6月15日 |
価格 | 2,000円(税込) |
『鹿踊りのはじまり』

私はこの童話を、はじめ電子辞書の中で読んだかもしれません。古い名作は、電子辞書に入っているときがあります。
この童話には六匹の鹿が出てきます。
ラスト、鹿が一匹ずつ短歌を披露します。
鹿踊り(ししおどり)は、岩手県・県北の久慈市や二戸市から、県南の一関まで、ほぼ全県に分布する岩手を代表する郷土芸能の一つです。
宮沢賢治が生まれた花巻市でも踊られています。
宮沢賢治が、この鹿踊りのはじまった由来を、冴えた着想で物語にしてくれています。
湯治にでかけた嘉十は、道すがら、栃と粟でできただんごを鹿に分けてあげようと思いつきます。
梅鉢草の足元にだんごを置いたとき、自分の手ぬぐいを落としてしまいます。
鹿たちは、手ぬぐいという物を見たことが無いので、
皆で順番に、おっかなびっくりその正体を探ろうとします。
最後には自分たちなりの結論を得て、
六匹六様に、短歌をうたうのです。
・じゃらんじゃららんのお日さん
・はんの木のすねの 長んがい、かげぼうし。
それぞれに自然を捉えて、心地よい言葉づかいで描写して行きます。
五番目の鹿がひくく首を垂れて、つぶやくようにうたったのが
「ぎんがぎがの
すすぎの底の日暮れかだ
苔の野はらを
蟻こも行がず。」
ぎんがぎがの すすぎのそごの ひぐれかだ
こげののはらを ありこもいがず
という短歌です。
西日に照らされぎらぎら光るすすきヶ原。
その底にある苔のじゅうたんの上は静まり、
蟻一匹通らない。
視線を上下させることで、力みなぎるさまと、ひそやかな広がりの、コントラストを見せてくれます。
ぜひ、この鹿たちのお話を、もっと聞いてみて下さい。
最後に、私も絵を描くのが好きなので、嘉十が落とした手ぬぐいの絵を描きました。
鹿はそれを何だと理解し(ようとし)たのか、
お楽しみに。
柴田有理
タイトル | 鹿踊りのはじまり |
著者 | 宮沢賢治, たかし たかこ (絵) |
発行 | 偕成社 |
価格 | 1,600円+税 |